自民党総裁選 石破へ45% 自民党党員の良識を見た

 安倍晋三の総裁三選が決まった。岸田も野田も早々に屈服し、尾っぽを巻いて安倍にクンクン頭を垂れた。森友加計問題などどこ吹く風、嘘、隠蔽も平っちゃら、文書改竄で国会国民を欺くことも屁の河童、国家国民を忘れ、己の次の政権での処遇、株の儲け位にしか関心のない連中が次々支持を表明して、国民の支持率とはおよそかけ離れた自民党国会議員の圧倒的支持の構図が出来上がり、安倍の圧勝が言われ続けた。政治に公平・公正さを求めることを、「安倍への個人攻撃になる」??と批判したお粗末な議員もいた。しかし、開けてみば、石破茂自民党党員票の45%が入った。

 株に言及したのはほかでもない。私が繰り返し主張してきた、理不尽な日銀株買い政策との関係だ。庶民のなけなしの預貯金の金利はいつまでたってもゼロ、他方で、日銀は札を刷って株を買い、大方が富裕層に属する株主に年6兆円もの金を配り続ける。
 これまで安倍政治を見てきて、自民党国会議員8割もの安倍支持は、党員らの冷静な判断との対比を言うまでもなく、いくら何でも常軌を逸している。そんななか、私がかろうじて、こういうことかと整理できたのが、この日銀の株買いよる株価つり上げ政策である。彼らのほとんどが政治資金を株で運用していて、株高の恩恵に浴しているのに違いないからだ。欧米の中央銀行はやらない、これほど見え見えで低次元のことを実行できるのはおそらく安倍しかいない。安倍を信認すればこの状態が続く。誰がやろうが政治はそうは変わらない。彼でいい。彼らの多くの安倍支持の理由はせいぜいそんなところにあるのではないか、と。いわば安倍の自民党議員の買収にもなるが、そうとでも考えなければ、これほど多くの国会議員が嬉々として安倍に付き従う理由を見つけ出すことは困難だ。
 また、株高の恩恵に小躍りする株主が押し黙るのは無理もないこととして、格差が拡大する一方の今の経済状況にあって株主だけを潤し続ける、許されようはずのないこんなやり方を、国民は一体いつまで許容するのか、冷や飯を食わされ続ける国民がこれほど酷い政策をどうして黙って見ているのか、国民の無反応も私には不思議でならなかった。日銀という看板に惑わされて、実は安倍の番頭黒田のよいしょ仕事でしかないものを、国家経済にとって必要で有意義な政策とでも思いこんでしまっているのか、国会での追及も弱く国民の声も盛り上がってこない。その理由を私は理解できないでいた。とりわけ、自民党支持者層にその容認傾向が顕著なのではないか、とも思っていた。
 しかし、私の認識不足であった。自民党支持者の中にもしっかり政治に目をこらし、正しい判断のもと安倍を良しとしない人たちがこんなにも沢山いる。落ちるところまで落ちた自民党国会議員はともかく、自民党党員、国民は大丈夫だ。
 
 私の場合、どちらが政治家として優れているのかは分からない。石破は思想的には安倍よりさらに右寄りで私の考えとは遠い存在かもしれない。しかし、国民に平気で嘘をつくだけでなく、部下にも嘘を強いて何の痛痒も感じない(国会答弁で「私は柳瀬さんの言うことを信じます」、「嘘をつき通してくれ」という柳瀬へのメッセージだ)、人間としての基本的道徳、倫理観を欠く人物に政治を任せるわけにはいかない。そのことだけはハッキリしていた。今回の石破への自民党員票もすべてが石破支持ということではなく、私と同じく「安倍だけはダメ」という意思表示がかなりの比重を占めていると考えていいのだろう。そこに、私は、日本の未来への救い、一筋の光明を見出すことができる。

 それにつけても、自民党国会議員たちの劣化には暗澹たる思いが増幅するのだが、それでも、今回の党員票を目の当たりにして、彼らが、自分たちの感覚と支持者たちのそれとの大きなズレを認識した可能性もなくはない。安倍政治礼賛、「安倍べったり」では次の選挙で自分の身が危うくなる。そう考えることがあるなら、自分の身が何より大事な彼らのこと、安倍との距離を考え始める者が出てくることもあり得る。そうなれば安倍一強体制に揺らぎも生ずる。
 また、この自民党党員票で、他にも期待できることがいくつかありそうだ。一つは、安倍の憲法改正のごり押しが難しくなるのではないかということ。上述の国会議員の震えがあり得ることに加えて、これほどの安倍の不人気では、国会を無理やり通しても国民投票で国民の手痛いしっぺ返しを食らう恐れが高いからだ。もっとも、責任感なし反省もなし、何にもめげない安倍のこと、これも分からないと言っておく方が無難かもしれないが・・・。
 もう一つは、これも「普通の人なら」の前置きが彼の場合は必要だが、これまでのような力任せの政権運営が少しは影を潜めるのではないかという期待だ。「安倍首相を信用できない」、これまで常に世論調査の最多を占めていた内閣不支持理由が、反自民の人たちだけではなく、自民党支持者の中にも確実に根を下ろして広がっていることが、明確な数字で示されることになったからだ。権力者安倍陣営からの様々な圧力、締め付けがあったにも拘わらず、である。森友加計問題での安倍の振る舞いは、自民党員の心にも深い傷を残し、彼への不信感が澱のように溜まり続けている。勝ったこの選挙で、一番居心地の悪さを感じているのは、この事実を突きつけられた安倍本人ではないのか。党員からの不信感をも招いてしまった森友加計学園問題で、自分のやったこと、国会と国民にどんな嘘をついてきたのか、隅から隅までその真相を最もよく知っているのが彼だからだ。真実を話して国民、党員に詫びてその責任を明らかにする以外に信頼を回復する手立てはないが、今さらそんなことはできない。彼は、野党支持者だけでなく、自民党を支持する多くの人たちからの冷たい視線にも曝されて、負い目を感じながらこのまま進むしかないのだ。 
 しかし、その道もまた険しくいかにも危ういものだ。真相のいくつかを知る者は他にも大勢いる。彼らが、これまで通り自己保身や出世欲で口をつぐみ続けてくれることが、彼の命綱である。誰か一人でも、その身に課せられた「国民全体の奉仕者」たるべき責任の重みを思い起こし、正義と公正に身を委ねる覚悟を決めれば、その瞬間に事実は露見し、総理大臣の嘘、隠蔽、悪事のすべてが白日のもとに曝される。彼は政界を追われるだけでなく、史上最低最悪の総理大臣として歴史に名を刻むことになるのである。彼の取り巻きたちが、真実にも正義にも背を向けて、自己保身や忖度とかで彼に服従し続けてくれることが唯一の頼みとは、あまりに危ういことではないか。彼の恐怖は計り知れない。
 選挙前の朝日新聞社説「自民党総裁選 国民は視野にないのか」に次の指摘があった。安倍の選挙戦が前回とは様変わりしている。政権構想は示されず、記者会見も開かれない。候補者の政策討論にも応じない。街頭演説予定も前回の三分の一。新聞、通信各社に自民党選管から「公平・公正」な報道を求める文書が配られる。ある支持派閥は所属議員に安倍への忠誠を誓わせる「誓約書」の提出を強いる。振り返ってみれば、圧勝見込みの楽観ではなく、国民の目から必死に逃げようとしていたとしか見えない彼の行動に、その恐怖は既に現れていたようにも思われる。
 そんな彼が、選挙前と同様に、国民の存在など意に介さない強権的な手法を押し通していけるのかどうか。

 一つ付言する。公務員の公正な職務の遂行を担保するために定められた「国家公務員倫理規程」の条文をしっかり読んでみて、初めて気づいたことがあった。公務員が利害関係者(許認可では、担当者と申請者)と行ってはならないとされる禁止行為の一つに、「遊戯とゴルフ」が挙げられている。ここまで具体的に指定されていることを私は知らなかった。同じ国家公務員、国民全体の奉仕者である。「倫理規定は特別職公務員(大臣など)には適用されない」では、とても国民の納得は得られまい。安倍は、加計理事長と何回となく、飲食、ゴルフを繰り返していた。安倍が「私は、最終認可の時まで、加計学園獣医学部申請のことは知りませんでした」と、国民が誰一人として信じない、真っ赤な嘘をついた理由は、この公務員倫理規程にあったのだ。