新潟県知事選 思い起こそう 福島原発事故で起きた奇跡 水素爆発

新潟県知事選では柏崎原発再稼働の是非が争点となる。推進派候補も前知事の検証路線は引き継ぐと言っていて、当選で直ちに再稼働はないだろうが、もし当選となれば、検証作業は急がされ、どんな報告がなされたところでこの人のもとでは再稼働必至である。この選挙がその分水嶺となる。県民の多くは再稼働など望んでいないと思うが、県民の気持ちに行政一般での国との連携などわずかでも隙が生まれれば怖い面もある。ここで、福島の原発事故がいかに重大なものであったかを改めて振り返っておくことの意味はあるだろう。新規制基準など原発の安全は保たれるのではないか、そんな幻想は打ち捨ててもらわなければならないからである。
 回復不能ともいうべきあれほどの被害がもたらされた福島原発事故であるが、実際のところは、信じられないような幸運、奇跡に助けられて、あの程度の被害にとどまったというのが事の真相である。このことが意外と認識されていない。思い出してもらいたい。爆発で原子炉建屋の屋上が吹き飛び、ヘリコプターが海から水を汲んでは開いた屋上の穴から海水投下を繰り返し、消防車が長い導水管を立てて屋上の穴から注水を続けたTV映像を。何をしていたか。最上階に作られていた使用済み燃料プールに注水し燃料を冷やし続けていたのである。その時は、全ての電源が失われていてポンプも停止、水をプールのある4階にまで上げることができなくなり(この使用済み燃料プールの位置の危うさにもこの事故まで誰も気づいていなかった)、プールの水は燃料温度の上昇で気化しどんどん少なくなっていた。水がなくなれば燃料棒が露出し、まず燃料収納機器(普通の金属)が溶け、2600℃になれば燃料そのものも溶けだして大量の放射能が環境にばらまかれることになる。そこには未曾有の大惨事が待っていた。当時の菅首相が「関東一円が危ない」と考えたのは根拠のあることである。風向きによってはそうなる(放射線ガンマ線でも空気中数百メートルでエネルギーを失い消失するから放射性物質が近くに来なければ大丈夫)。
 使用済み燃料がどうして発熱するのか。熱の正体は物質の振動である。ウラン235の核分裂で生まれた放射性物質は、自然崩壊(原子が割れること)を繰り返して放射線を出し続ける(その量が半分になる時間を半減期という。福島で大量に放出されたセシウム137の半減期は30年。30年経っても放出放射線量は半分になるだけ)。この出続ける放射線が燃料組成物質に衝突して振動させ熱となるのである。そして、使用済み燃料の熱量は圧力容器内で使われていた燃料よりも大きい。それは、使用中の燃料にはウラン235が核分裂した分だけの放射性物質しかないが(圧力容器内の水が失われるとウラン235の分裂は止む。水[の中の水素原子]が核分裂に必要だから)、使用済み燃料では燃焼(核分裂)でウラン235のほとんどが放射性物質に変わってしまっているからである。
 建屋内部は放射線量が高く建屋内からプールに近づいて注水することは不可能だ。建屋の壁も天井も厚さ1mもの鉄筋コンクリート造りである。ダイナマイトでも使ってうまく注水用の穴を開けられるのかどうか、それに類する一か八かのようなことがあの場面で許されたかどうか。その使用済み燃料溶融の危機を救ってくれたのが、あの巨大な水素爆発である。それも丁度、屋上を吹き飛ばし、格納容器は壊さないような絶妙な規模で。また、爆発規模が、使用済み燃料プールの底部にダメージを与えるものであったなら、プールの底が抜けていた。穴あきプールではもはや冷やしようがない。地獄が待っていた。
 加えて、この水素爆発自体がもともと安全審査では起こるはずがない(想定不適当)とされていた事象である。燃料被覆管の金属と水の反応で水素が生じるのだが、この水素対策として水素酸素再結合機(水に戻す)が格納容器に設けられていたし、格納容器から原子炉建屋に水素が漏れることはないことにもなっていた。これら安全装置が何も機能しなかった、それ故に水素が大量に発生し建屋に漏れ出して大爆発が起きた、それが国民を救ってくれた、ということになるのである。不思議な気分にもなるが、私たちに大事なことは、この幸運に感謝しつつ、上辺の結果だけから事故の真相を見誤ってはならないということである。福島の事故は原発の再稼働など誰も口にできないような深刻な事故だったことを決して忘れてはならない。
 ともあれ、愚かな人間を天は一度助けてくれた。二度はないであろうこれほどの幸運を私たちは無駄にしてはいけない。大事故は思いもよらぬところから起き思いもよらぬ経路で拡大する。危急の場にある運転員の判断ミス、操作ミスも避けがたい。また必ずどこかで大きな事故が起きる。1年の4分の1は雪に覆われ、車が一台スリップして道路を塞いだだけで道路が使えなくなるこの地で、避難訓練をして柏崎原発を再稼働する? ありえないことだ。人の命と健康の大切さというものを、いの一番に考える政治であってほしいものである。私たちがそういう政治家をつくり、ダメな政治家は私たちの力でこれを排除しなければならない。